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水戸地方裁判所 昭和51年(ワ)210号 判決

主文

被告らは各自原告小田島幸徳に対し金一、二九六万六、五七四円および内金一、一四六万六、五七四円に対する昭和四八年六月二一日より、原告小田島よねに対し金一一〇万円および内金一〇〇万円に対する同日より各完済まで各年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決はかりに執行することができる。

事実及び理由

原告ら訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、別紙のとおり請求の原因を述べた。

被告らは、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

右の事実によれば、原告らの請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九三条一項本文、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

請求の原因

一 原告小田島幸徳は肩書住所において果物および食料品販売業を営んでいた者、原告小田島よねはその妻であり、被告金宗徹は笠間市内に本店を有するほか、西茨城郡友部町に支店を設けてパチンコ店を経営する者、被告金龍徹は右宗徹の伜であつて同被告のもとで友部支店の営業に従事していた者であるところ、

二 昭和四八年六月二〇日午前九時五七分頃、原告幸徳が自己所有の自転車で商品仕入先に向う途中、水戸市大工町一丁目三番四号地先の交通整理の行われていない交差点にさしかかつた際被告金龍徹は被告金宗徹保有にかかるマツダルーチエ普通乗用自動車(登録番号茨55め第一二七号)を運転して赤塚方面から水戸駅方面に向い国道五〇号線を進行して来たが、同所は制限速度四〇粁の規制がなされていたのに拘らずこれを無視し、時速七五粁に及ぶ高速でしかも前方注視を怠り交通の安全を確認することなく走行した過失により、折柄該道路の北側から南側に横断すべく自転車を押して中央線附近まで進出していた原告幸徳を発見し急制動をかけたが間に合わず、これは側面衝突、その場に撥ね飛ばし転倒させ、因つて同原告に対し頭部打撲挫創、頸部捻挫、脳挫傷、天幕下中枢障害等の瀕死の重傷を負わしめると同時に同原告の自転車を大破せしめた。

三 原告幸徳は即日水戸市泉町一丁目所在の志村胃腸科外科病院に入院し、同年一一月三日まで治療を受けたがその間全身衰弱のため肺炎および肺結核を併発したため、同病院に在院のまま同年九月二八日以降那珂郡大宮町三一三番地志村大宮病院に通院するようになり、同年一一月三日転院して以後同病院において昭和四九年六月一六日まで入院加療し、同日退院した。さらに右大宮病院において昭和五〇年七月一七日まで通院を継続したが、同年八月二六日以後は再び前記志村胃腸科外科病院に転医し、兼ねて志村大宮病院にも同年一〇月二八日まで通院して引続き治療を受けることを余儀なくされたものであるところ、その病状は昭和五〇年七月一九日現在生命維持に必要な身の廻り処理の動作は可能なるも、高度の機能障害は回復の見込みなく、終生就労不能との診断により第三級後遺障害と認定され、その後も同年一一月二一日現在頭痛、頭重・頸部痛、肩部緊張、耳鳴、めまい、記憶力減退、歩行時のふらつき、平衡感覚障害等の症状が残存し、いまだに通院加療を必要としている。

四 さて、原告幸徳が本件交通事故によつて蒙つた損害はおおよそ次の通りである。

人的損害

(1) 治療費 計金一六万九、七一四円

〈イ〉 金九万五、八九八円(志村大宮病院分)

右は昭和四八年九月二八日以降昭和五〇年七月一七日まで入院日数二二七日通院実日数五八日に対する医療費計金二七万五、八九八円のうち、被告等から一部弁済を受けた金一八万円を控除した残額である。

〈ロ〉 金五万六、五五一円(志村胃腸科外科分)

右は昭和五〇年一月二五日以降同年一一月一一日まで通院実日数六一日に対する医療費(国民健康保険自己負担金)として同原告が支出したものである。

〈ハ〉 金一万〇、五四二円(志村胃腸科外科分)

右は昭和五〇年一一月一二日以降昭和五一年五月三一日まで通院実日数一四日分に対する医療費(前回負担金)である。

〈ニ〉 金六、七二三円(志村大宮病院分)

右は〈イ〉以後の通院五回分の医療費支出である。

なお、右以外に志村胃腸科外科病院における昭和五〇年一月二四日以前の治療賃金一一九万一、七八〇円が支出されていたが、これは全部自賠責保険給付その他により弁済充当済である。

(2) 附添費 金二七万二、〇〇〇円

右は同原告の妻よねが志村胃腸科外科入院中一三六日間附添看護したことに対する一日当り金二、〇〇〇円の割合による附添費である。

(3) 入院雑費 金一八万一、五〇〇円

右は志村胃腸科外科および志村大宮病院を通じ入院日数合計三六三日分一日当り金五〇〇円の割合による入院雑費である。

(4) 通院交通費 計金四万四、二八〇円

〈イ〉 金九、〇〇〇円(袴塚―泉町一丁目間)

右は原告幸徳が自宅から志村胃腸科外科病院まで通院に要した一回当り往復バス代金一二〇円の七五回分である。

〈ロ〉 金三万五、二八〇円(水戸―大宮間)

右は同じく自宅から志村大宮病院まで通院に要した一回当り往復バス代金五六〇円の六三回分である。

(5) 通院附添費および同交通費 計金一八万二、二八〇円

〈イ〉 金一三万八、〇〇〇円(通院附添費)

右は同原告の妻よねが上記通院にあたり毎度附添いを余儀なくされたことに対する一回当り金一、〇〇〇円の割合による計一三八回分である。

〈ロ〉 金四万四、二八〇円(附添人交通費)

右は同じく妻よねが通院附添をなすについて要したバス代金であつて、その計算内訳は前記(4)の〈イ〉〈ロ〉と同じである。

(6) 休業損害および逸失利益 計金六一六万〇、八〇〇円

原告幸徳は本件事故当時満六五歳であつたが、極めて頑健でかねて第一項記載の営業に従事し、月商二五万乃至三〇万円を挙げその純益は月額金一〇万円、年収金一二〇万円を下らなかつたところ、前記受傷により現在まで全く稼働することができず、かつ将来も終生就労不能となつたので、その休業損害および逸失利益の合計は、少くとも右年収額に六五歳時の就労可能年数五・九に対応するホフマン式係数五・一三四を乗じて算出される金六一六万〇、八〇〇円を下廻ることはない。

(7) 慰藉料 金八七七万円

原告幸徳が本件傷害により長期間の病床生活を強いられ、莫大な苦痛を忍ばざるを得なかつた精神的打撃は金銭に計りがたいものであるが、これを慰藉するには少くとも金二五〇万円を必要とするところ、上述の後遺障害(第三級)に基づく慰藉料として別に金六二七万円を加算すべきであるから、その合計額は金八七七万円となる。

以上合計金一、五七八万〇、五七四円

ただし原告幸徳は(前述(1)末尾記載の一部弁済金のほか)被告等から昭和四八年一〇月八日金五万円、同年一二月一五日金五万円、昭和四九年三月三日金一〇万円、同年四月一〇日金五万円、同年七月二日金一〇万円、同年八月一〇日金一〇万円(計金四五万円)の支払を受け、さらに訴外住友海上火災保険株式会社から昭和五〇年一二月一一日自賠責後遺症補償金三九二万円の弁済を受けたので、これらを控除するとその残額は金一、一四一万〇、五七四円である。

物的損害

原告幸徳は本件事故発生の際自転車を修理不能の状態に大破せられたほか、購入後間もない新品のメガネ及び腕時計を同様破損滅失したので、その損害は次の通りである。

中古自転車 金五、〇〇〇円

メガネ 金三万六、〇〇〇円

腕時計 金一万五、〇〇〇円

右合計金五万六、〇〇〇円

五 さらに原告よねは本件事故によつて夫である右幸徳がにわかに瀕死の重傷を蒙つてすでに三年を経過してもなお回復しないばかりでなく、終生不治の廃人同様の身となり、四六時中傍に付ききりで身辺万般の面倒をみなければならない境涯となつた。かくて原告よねの老後の生活は夫幸徳が死亡したにも比すべき重大な打撃をうけ、もはやその人生に希望も喜びもなくなつたと言つても過言ではないであろう。よつてその精神的苦痛を慰藉するため、原告よねは少くとも金一〇〇万円の支払を請求する権利を有すると考えるのが相当である。

六 ところで、原告らの蒙つた前記損害は悉く被告金龍徹の不法行為に基因するものであるから、同被告においてそれが賠償義務を負担すべきことは勿論であるが、さらに被告金宗徹は前記第四項後段の物的損害に関し、その営業上の従業員でもある伜龍徹の業務上の行為につき民法第七一五条に定める使用者責任を負うものであり、又その余の人的損害に関しては加害車両の連行供用者として自動車損害賠償保障法第三条による賠償義務を有することは明白であるから、被告両名は連帯して原告小田島幸徳に対し、金一、一四六万六、五七四円及びこれに対する不法行為の翌日である昭和四八年六月二一日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を附加して支払うべき義務があり、又原告小田島よねに対し第五項の慰藉料金一〇〇万円とこれに対する右同様の遅延損害金を支払うべき義務あるところ、被告らはこれを任意に履行しないので、やむなく原告らは水戸弁護士会所属弁護士中井川曻一にその訴訟手続を委任し、その際手数料として原告幸徳から金一五万円を支払い、かつ判決時に原告両名の各勝訴額の一割五分に相当する報酬金を支払うべきことを約したのであるが、右弁護士費用として支出もしくは負担した金額が本件事故発生と相当因果関係を有することはいう迄もないので、その内金一五〇万円を原告幸徳分として、内金一〇万円を原告よね分としてそれぞれ請求額に加算し、請求の趣旨記載の判決を求める。

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